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【株式会社Spectee】
村上建治郎社長インタビュー

【株式会社Spectee】<br>村上建治郎社長インタビュー

村上建治郎社長 略歴
ソニー子会社にてデジタルコンテンツの事業開発を担当。その後、米バイオテック企業にて日本向けマーケティングに従事、2007年からシスコシステムズにてパートナー・ビジネス・ディベロップメントなどを経験。
2011年に発生した東日本大震災で災害ボランティアを続ける中、被災地からの情報共有の脆弱性を実感し、被災地の情報をリアルタイムに伝える情報解析サービスの開発を目指しユークリッドラボ株式会社(現・株式会社Spectee)を創業。著書に「AI防災革命」(幻冬舎)

創業された経緯を教えてください

我々の会社は、2011年、東日本大震災の年に創業しました。当時はサラリーマンをしながら現地でボランティア活動を行っていたのですが、テレビなどマスメディアによる情報の限界を感じ、「被災地から見た正しい情報・必要な情報を、いかにリアルタイムに伝えるか」「いかに災害情報を可視化し、整理することで災害対応に役立てられるか」ということに重要性を感じたのがきっかけです。

マスコミの情報と現地の情報の違いというのは?

震災当時、テレビの中継で、石巻市に「ボランティアが全国から集まっている」とボランティアセンターの前に長蛇の列ができている光景が映し出されていました。それを見た時、「こんなにたくさんの人が集まっているなら、もう人手は足りているのではないか」と感じました。しかし、実際に現地へ行ってみると石巻市のすぐ隣の東松島市ではボランティアが少なく、人手不足で困窮していました。
つまり、テレビで放映されていた石巻市には多すぎるくらいボランティアが入っていたのですが、同じく人手を必要とする隣の東松島市にはほとんど入っていなかったんです。
災害の際にテレビ等のマスメディアの役割は重要ですが、しかし現状では災害の現場のリアルをちゃんと伝えられているかというと、必ずしもそうではないと思っています。被災の大きい場所や何か象徴的な場所に取材が集中してしまったりして、すべての被災状況や細かい被災地のニーズを網羅的に伝えているかというのは難しいと感じました。

そうした中で、当時SNS(Twitter)には「どの場所のボランティアは足りていない、どの場所では物資が逼迫している」など被災地の方の投稿がいつくもあがっているのを見ました。テレビなどのマスメディア的な視点とは別の形で、被災地の本当の状況を伝えることができるのではと思ったんです。

村上社長が人生において大切にしていることを教えてください

災害をきっかけに自分の人生も色々変わったと思っています。大きな災害に起きた時、いつも感じることは「世の中にあるものは凄く脆くて儚い」と。東北の震災にしても、前の阪神大震災にしても、そう感じました。
そういった実体験から「やりたいと思った時に、その瞬間にやろう」ということは常に思っています。この瞬間に大規模な災害が発生して、もしかしたら命を落とすかもしれない。何かが破壊されて、やりたいことができなくなるかもしれない。「いつかやりたい」そのいつかは来ないかもしれない。
なので、後悔しないようにやろうと思ったことをその瞬間にやろう!と災害を経験して思うようになりました。何かをやって失敗するより、やらなくて後悔するほうが、気持ち的にもつらいですからね。

スペクティの理念・ビジョンを教えてください

スペクティは世界中で発生する様々な“危機”を可視化することをミッションに掲げています。リスクが可視化されることによって、災害や危機への対応が迅速化され、被害を最小限に抑えることが可能になります。

Spectee Proサービスイメージ

「危機を可視化する」というミッションに込めた想いを教えてください

日本は災害大国で、毎年のように大雨・大雪・台風・地震など様々な自然災害が発生します。また、最近では世界規模での感染症など、これまで経験したことのないような“危機”が起こります。そういった災害や危機に対して情報を“見える化”することで、それによる被害や損失を減らしていきたいと思っています。“危機”を見える化することで、的確な判断もできるようになってきます。それが我々の目指しているものであり、突き詰めていくべきものでもあります。

会社を設立されてから、どのように貴社サービス「Spectee Pro(スペクティ プロ)」を構築されていったのですか?

会社を設立して最初に行ったのは、地域の人々が情報共有できる、ローカルSNSのコミュニティサービスです。これは正直、あまり上手くいかなかったです。当時、ユーザーを獲得するのに限界を感じていました。
その後、我々自身がローカルSNSを作るのではなく、すでにあるSNSの情報をローカルに集約することで、地域情報を整理するという形に変えました。そこで登場したのが「Spectee」です。「Spectee」は、ラテン語を語源とする英語の接頭語「spect」=「見る」「観察する」「見渡す」という意味から付けています。最初は誰でも使えるスマートフォンのアプリでした。そこから更に発展し、個人向けから法人向けのサービスに転換して、デスクトップ版にリニューアルして今に至ります。

「Spectee Pro」について詳しく教えてください

「Spectee Pro」は、世の中の様々なデータを組み合わせて解析し、リアルタイムに情報を可視化します。TwitterやInstagramなどのSNS、雨雲や台風などの気象データ、街中・道路・河川などに設置されているカメラの情報、自動車の走行データ(プロープデータ)など、集積するデータは多岐にわたっています。

その中でも重要なソースが、一般の方が投稿するTwitterやInstagramなどSNSの情報です。SNSはリアルタイム性があり、非常にスピーディーに情報が届くので、災害時の被害状況の把握にとても役に立ちます。一方で、非常に情報量が多く、また雑多な情報なので、そのままではなかなか使うことができません。その中から本当に必要な情報を抜き出すことや、情報の正確であるかどうか確認もとても重要です。スペクティでは、情報の信ぴょう性を担保するため、正誤判定するAIとファクトチェックを行う人のチームで正確な情報を届けることに努めています。

SNS以外にも他のデータと組み合わせながら、発生している場所や被害の規模を正確に可視化しています。それによって、状況の把握、行動の優先順位判断に役立つのが我々のサービスです。

「Spectee Pro」を活用した災害対策について教えてください。

「Spectee Pro」からの情報を受け取り、また分析結果を見ながら、適切なリソースを当てていくことが、とても大切ですね。

我々のサービスは国や自治体・企業のBCP(事業継続計画)やサプライチェーンのリスク管理に使用して頂いていることが多いです。
たとえば自治体では、災害が発生した時に、以前は住民からの電話による通報や関係部門からのファックス、またテレビなどの情報をもとに、正確な現場の状況はわからないけど、まずは現地に行ってみるといった感じでした。しかし、実際は「もっと被害が大きい場所がありそっちを優先すべきだった」や「もっと真っ先に向かう場所があった」といった事例も過去には多々ありました。

「Spectee Pro」は、リアルタイムに災害の規模と被害状況、今後の被害の広がりを可視化するサービスです。その情報をもとに適切なリソースを当てていくことが可能になります。被害に応じた人員の確保や分担、必要な資材の調達などの大きな判断材料となりますので、緊急時において最善の対応を取ることができるでしょう。

日本は災害大国ですが、防災のレベルは世界基準で見ると高いものですか?

災害時において、建物や道路・上下水道・鉄道・通信施設など、生活を支える都市インフラなどの強度については、日本は世界で一番強靭だと思います。
一方で、災害対応というのは上記のようなハード面の対応だけでは十分ではありません。特に想定外のことが起こる局面では、それに対応するソフトの面での強化が必要であり、この部分において日本はまだまだ劣っている部分がありますね。
IT技術やAIなどの新しい技術を取り入れることが減災につながっていきます。
日本の場合、大きな津波が発生し被害が起きると、その大きな津波に対応するためのスーパー堤防を作ろうというようなハード面での強化に行きがちですが、アメリカなどは少し考え方が違って、防災というよりは減災に近く、災害が発生した際にある程度の被害は甘受した上で、緊急時に的確な判断と迅速かつ柔軟な対応を行うことで、被害を最小限に抑え、復興に向けて最善の策を打てるか、ということに力を入れます。こういった対応は「レジリエンス」と呼ばれています。
被害を0(ゼロ)にすることに余計なコストをかけるよりは、早く状況を察知して避難させる、被害を小さく抑えて収束させるなどですね。アメリカは、レスキュー隊が早く出動するために、最新のテクノロジーを使い、判断するための情報収集にすごく力を入れています。
ハード面の強化も大事ですが、作っても月日が経てば老朽化・劣化してしまいます。そのためのメンテナンスコストも馬鹿になりません。日本は危機が発生したときに迅速に・柔軟に対応する「レジリエンス」という考え方が重要です。情報を集めるためのソフト面に予算をかけていく事も重要だと感じていますね。

株式会社Specteeを運営される上で大切にしていることを教えてください

会社は一人で成り立っている訳ではないので、チームの皆が主体的になることがすごく大切です。
災害対応は人命にも関わりますし、社会にも貢献できるということで、個々が誇りを持って仕事をすることができます。チームの皆がそのような意識で仕事ができるように心掛けていますね。

スタートアップが陥りがちの例として、技術から発生してミッションとは違うことに手を出してしまうケースがあります。例えば、我々の会社でいうと、SNS分析をやっているので、そこからマーケティング分析などの仕事を受けたり、そういった方面でのサービスを出したりすること。もちろん、技術的には力になれますし、お付き合いで受けることはありますが、自社の向かうところと違うので、社員の士気は上がらないです。当然、会社によっては多角化することの方が良い場合もあります。ですが、我々は「災害から人々を救いたい」という思いで結束したチームなので、その部分はブレないでやっていこうと思っています。自分たちの向いている方向に“全集中”していこう!そのことは大事にしています。

一方で、災害対応にかかわることであれば、新しいことをやっていきたいというのはすごくありますね。まだ世の中にないこととか、何かを変化させるとか、そういったことにどんどんチャレンジする気持ちは大切しています。
既存のものをそのままやります、というと、スタートアップをやっている意味が薄れてきてしまう。
我々がやる以上は、今までになかった新しいものや、このサービスがあれば災害対応の世界が変わる、というような事を目指していきたいです。

村上建治郎社長

今後の目標とビジョンについて教えてください

災害の対応をするためには色々なことが必要となり、その中でスペクティができることはまだまだ沢山あります。
一つ今取り組んでいることは「災害が発生したときに、被害をいかに的確に予測できるか」ということです。

例えば首都直下地震が発生したときに、最大どのくらいの被害があるかという想定は、国が立てたりしています。しかし、それはあくまで最大の被害の想定であって、実際に発生したときにどの程度被害が出るかは、地震が起きてみないと分からない状態です。地震が発生したときに、様々なデータから瞬時にかつ的確に被害状況を予測できれば、それに対応するための適正なリソース配分がわかります。

他の例でいうと、河川が氾濫した際のハザードマップでは、氾濫した場合「最大で水がここまできます」ということは示されていますが、必ずしも最大値になるとは限りません。堤防の高さを越えるのか、ある部分が決壊するかで危険な場所も変わります。早い段階で被害の状況を把握し、その先を予測することで、住民を的確に避難させたりすることができます。
リアルタイムで起きた事象や状況に合わせて、精度の高い被害予測をする。その精度をあげるということに我々は取り組んでいます。

もう一つの取り組みとしては、災害大国日本からの防災技術を、いかに世界に展開していくかということです。
今、気候変動などの影響もあり、世界でも自然災害は増えています。防災の産業は、日本が強みを活かせる領域でもあります。日本発のテクノロジーを世界に出していくというのは、大きな目標ですね。

未来に向けて主に2つの取り組みを行われているんですね。日本の防災業界に期待することはありますか?

現状、防災領域のスタートアップはとても数が少ないです。もっと盛り上がって良いと思います。
災害大国の割には防災テックをやるスタートアップ少ないな、という感じはしています。
大企業ではないスタートアップだからこそ出来ることはたくさんあります。新しいアイデアと最新のテクノロジーで防災をアップデートする。そのような動きが広がっていくと良いですね。

株式会社specteeロゴ

企業概要

企業名 : 株式会社 Spectee(スペクティ)

代表者 : 村上 建治郎

所在地 : 東京都千代田区

設立  : 2011年

従業員数: 120人

事業内容: ”危機を可視化する”をミッションに、AI等の最先端のテクノロジーを活用し、防災や危機管理に関連した技術開発を行っています。

URL  : https://spectee.co.jp/

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