【ベイビュー・ アセット・マネジメント株式会社】
八木健社長インタビュー
八木健社長 略歴
1984年、一橋大学商学部を卒業後、野村證券入社。1989年ペンシルバニア大学ウォートン・スクールにてMBA取得し、1998年にRSアセット・マネジメントを設立。2007年に社名をベイビュー・アセット・マネジメントに変更、現在に至る。2003年(社)日本証券投資顧問業協会(現 一般社団法人 日本投資顧問業協会)理事に就任(通算9期)。2020年一橋大学資金運用管理委員会委員に就任。
“ベンチャー精神を持ち新しい事に挑戦すること”、“実力主義によるフェアな評価”。この二つを私自身の大切な価値観としてきました。
大学卒業後、1984年に入社した野村證券は大企業ではありましたが、ベンチャー精神溢れる会社でした。ところが証券不祥事を契機にそのスピリッツが次第に失われていく中、米国MBA留学をきっかけにシリコンバレー、そしてシリコンバレーを育てた米国ブティック型金融機関のパイオニアであるRobertson Stephens & Company(RS&Co.)と出会います。イノベーションを次々と生み出すシリコンバレーのパワーと、金融の世界において専門性とクオリティを徹底追求する”ブティックハウス(専門店型組織)”という日本に無い存在を知り、深く感銘を受けたことを今でも覚えています。
こうした経験を通じて、日本初の独立系運用ブティックハウスを起ち上げ、大手金融機関が支配する閉鎖的な日本の金融業界の変革に挑戦したい、そして自分自身の実力で勝負したいという思いが強まり、1997年に30代半ばでの創業を決意しました。
有難いことに、メリルリンチやモルガンスタンレーといった著名な外資系証券から、野村證券とは比べ物にならない何倍もの金額を提示されるヘッドハントのオファーをもらいましたが、外資系に行くのであれば日本人として野村でプライドを持って頑張りたいと考えていたので全て断り、起業の道を選びました。野村證券の同僚からは「なぜ外資に行かないのか」と非常に驚かれましたが、自分で会社をやることに何の迷いも無く、必ず成功すると確信して新たな道へ進みました。
”神は細部に宿る”が私の座右の銘です。細かいことを現場できっちりやらないと、その先にある大きな仕事を達成することは到底できないと考えています。成功するためには、まずは目の前のことを全力でやり遂げるのが大切だと肝に銘じてきました。
その上で、常に緊張感を持って仕事に取り組む”常在戦場”、何事も粘り強く積み上げていかないとゴールには辿り着けない”千里の道も一歩から”、さらに、会社を経営するには周り(社員)の助けが必要という”感謝の気持ちを忘れるな”、が私の大切にしている言葉です。
当社創業のルーツは、シリコンバレーです。シリコンバレーは、サンフランシスコを中心とするベイエリア(Bay Area)にあります。そのベイ(Bay)という言葉、そして上述したRS&COに存在した伝説のイノベーション・ファンド、“ベイビュー・ファンド”。当社の社名“ベイビュー”には、ベンチャー精神を忘れず日本の運用業界にイノベーションを起こす存在でありたい、他社に無い運用商品やサービスを次々に打ち出していきたいという思いが込められています。そして、私が社員に常に強く求めていることは”創造”です。昨日までやって来たから今日も同じことをやるという発想は一切止めるよう常々伝えています。より良い方法はないか考え積極的にトライする姿勢を大切にしており、たとえそれで失敗しても前向きな挑戦なら問題無いと考えています。まさに現場で生まれるイノベーションが大切なのです。
企業ロゴには、ブティックハウスに相応しいお洒落さ、と同時に未来に向けた上昇のイメージを持たせたいと考えました。
当社の企業理念は、”全ては顧客(投資家)のために、常に顧客目線で考える”です。私が新卒で入社した野村證券は、社是として”顧客と共に栄える”を謳っていました。しかし実際には、顧客を踏み台にして自分達だけが栄える、ではないかと入社後に感じていました。1人の営業マンとしてそれは間違えていると思い、所属した支店の方針には従いつつも、自分の顧客だけは必ず守ろう、しっかり儲けてもらおうと独自のプラスアルファの行動を心掛けました。支店の先輩からは、”お前はバイサイド・セールス(顧客の側に立った営業マン)だ”と揶揄されましたが、むしろそれを光栄と思い、努力を重ねて支店でトップの成績を収め、誰からも文句を言わせませんでした。以来、顧客のために尽くせば必ず結果はついてくる、顧客目線で考え行動すれば良いと確信しました。当社を創業してからも、その理念を基軸にぶれることなく経営してきたことで、着実な成長と発展を遂げられたと自負しています。
当社のビジョンは、“日本の資産運用業界を変革する存在であること”です。その実現のためには、独立系運用ブティックハウスとして先進的な差別化された商品を提供することは不可欠です。その上で、そしてデジタル・マーケティングを通じ、個人投資家を証券会社等の販売会社の呪縛から解放することが目標です。運用を深く理解しているのは運用会社であり、販売会社ではありません。運用商品を作っているのも販売会社ではなく運用会社です。機関投資家に対しては、運用会社が直接対話し商品を提供できるのに、個人投資家に対してはそんなシンプルなことがなぜできないのか?実際、運用をよく知るプロの機関投資家は、販売会社とは取引しません。しかし個人投資家だけは販売会社を経由しないと運用商品に投資できないのが日本の現状です。こうした点においても、日本は投資先進国の米国に大きく遅れを取っています。多数の機関投資家から支持されブランドを構築してきた当社は、日本で初となる、個人投資家に向けた運用会社による本格的なオンライン直販事業「ベイビュー投信」を2025年4月より開始しました。目標を達成するには数年単位の時間が掛かると思います。それを覚悟の上で、大きな試みに挑戦していきたいと考えています。
当社の特長は、①日本最大の独立系運用会社であること、②日本で初めてのブティック型運用会社(運用ブティックハウス)であることです。
独立系とは、「影響力ある外部株主を持たない」ことが大前提です。証券・銀行・保険・外資等の系列の運用会社は全て子会社なので、独立系とはいえません。また、上場会社も、外部に多数の株主を抱えているため独立系とは呼べません。株主が外部にいると、投資家(顧客)ではなく株主(親会社等)を向いて経営することになります。そうなると運用会社は株主のために利益を追求せねばならず、無理な契約資産の拡大に走り、運用パフォーマンスの質が損なわれやすくなります。運用会社は本来、株主ではなく投資家を向いて、運用パフォーマンスの向上だけを考えねばなりません。当社は日本最大の独立系運用会社として、真に投資家を向いた経営を創業以来貫いて来ました。
また、当社の所在地は千代田区一番町です。日本の金融村である大手町・丸の内・日本橋からは、皇居を挟んで反対側にあり、これも当社の独立系としての矜持です。
そして、当社はマルチ・ブティック型運用会社です。つまり単一の運用商品(例えば日本株式運用のみ)ではなく、複数の他に無い魅力的な商品を揃えています。当社の中に運用チームがある商品と、海外の一流の運用ブティックハウスと提携している商品があり、投資対象分野は株式、債券、マルチアセット、そしてプライベート・アセットと多岐に渡ります。そしてブティック型の大きな差別化は、「顔が見える」ことです。運用責任者、つまりファンドマネージャーがどういう人か、経歴、運用哲学やスタイル等が全て公開されています。こうした透明性の高い開示を行っている運用会社は、日本には殆どありません。一流レストランに行けば、シェフが誰か分かり話もできますが、ファミレスではあり得ません。ブティック型運用会社は、まさに一流レストランと同じであり、日本の大手運用会社のビジネスモデルである、似通った多数の商品をワンストップで大量に取り扱う百貨店(デパート)型とは大きく異なります。
また、ブティック型を換言すると、当社はプラットフォーム・ビジネスを標榜しています。つまり、営業から始まり、企画、管理、コンプライアンス等様々な部門がプロデューサーとして、強固な運用プラットフォームを創っているのです。運用者は、アーティストとしてそのプラットフォームの上で、それぞれの哲学やスタイルに基づいた独自のパフォーマンスを繰り広げます。そして観客は、投資家です。運用者はアーティストなのでお互い独立しており、経営には関与せず、自分のやり方で自由にパフォーマンスをします。つまり、経営と運用は完全に分離しているのです。従って当社には市場に対する会社としての統一された見方、ハウスビューは存在しません。ファンドマネージャーごとに見解は大きく異なり、それを良しとします。このような真のプラットフォーム・ビジネスを行っている運用会社も、日本には殆ど無いと思います。
当社が設定する投資信託(ファンド)を自らオンラインで直接販売する「ベイビュー投信」は、販売会社を介さずに、運用会社が個人投資家と直接つながる新たな資産運用のスタイルを目指して立ち上げたサービスです。ファンドの製造元である運用会社が、自社商品をダイレクトに届けることで、①販売手数料など中間コストの排除、②詳細な運用戦略の開示、③質の高い運用状況の報告などが可能になります。
そして、当社がその第一弾としてローンチした「グローバル・サプライチェーン・ファンド(愛称:賢者の設計)」は、これまで機関投資家のみに提供されてきた運用戦略を、個人も投資可能にした画期的なファンドです。具体的には、先進国の大手輸入企業とアジアの中小輸出企業間の売掛債権に投資し、株式や債券とは異なる、低リスクかつ魅力的なリターンの獲得を目指します。市場変動の影響を受けにくいこの戦略は、昨今注目を集めるオルタナティブ投資の中でも最先端をいく存在であり、それを個人投資家の資産形成の選択肢としてオンラインで提供する意義は非常に大きいと考えています。
当社で働く最大のやりがいは、社員一人ひとりが組織の中で重要な役割を担っている実感を得られることです。当社が日本を代表する独立系運用ブティックハウスであるためには、社員は誰一人欠かすことのできない存在なのです。社員が秀逸な仕事をすることで立派なプラットフォームが築かれ、その上で運用者が優れたパフォーマンスを発揮することが出来る。結果、業界や投資家に大きな影響を与えていくことができます。大きな組織の中でコマとして埋もれてしまうのではなく、少数精鋭として存在感を発揮することが当社で働く醍醐味だと思います。
もちろん、そのために求められる水準は大変高いものとなりますが、そのハードルを超えていくことで、社員は逞しい人材へと成長していきます。慢性的に人材が不足する運用業界において、トップクラスのプロフェッショナルへ自らを磨いていける環境、それが当社であり、仕事のやりがいにつながっていると考えています。
今まで、そして今も苦労しているのが「優秀な人材の獲得」です。特に創業期は誰も知らない無名の小さな会社でした。一流の大学を卒業し、優秀な人たちが競い合う金融界での採用活動は困難を極めました。従って、求められる水準には達していない社員を採用し、鍛え、レベルアップを図る必要がありました。しかしその厳しさについて来られる人は多くありません。辞める人が増えると会社内の士気も低下し、悪循環に陥りがちです。だからといってそこで妥協しては、アウトプットの質は下がり、当社が存在する意味は失われます。当社は独立系運用ブティックハウスとして、野村や三菱やゴールドマンといった著名な運用会社を上回るクオリティのサービスとパフォーマンスを提供しなければならなかったのです。そうした創業期の苦しい時に、何人かの社員が必死に努力し定着することで発展の礎が築かれました。そこに新たな人材が加わり、求められるレベルは同じでも、先輩から学び、高いハードルを超えていける土壌ができました。
また、当社独特の文化や価値観も新たなメンバーにとっては大きな試練です。例えば、当社には五つの行動規範(責任・誠実・人和・創造・実績)という全社員が遵守すべき規律が創業以来あり、社員の評価もそれに基づいて行われます。そうした規律について一切妥協せず、徹底することが大事だと私は経営者としての経験から学んできました。野球に例えるなら、四番バッターやエースピッチャーを特別扱いして優遇すると、やがて組織の規律が崩壊し、チーム全体がダメになっていきます。会社も全く同じだと考えており、役職や担当業務に係わらず、当社の規律を全ての社員に一貫してフェアに課しています。
まずは、2025年4月から本格的に開始したデジタル・マーケティングに全力で取り組み、様々なチャレンジを続けることで、運用会社である当社と個人投資家とのダイレクトな関係を時間をかけてしっかり築いていくことが目標です。
一方で、当社は機関投資家からの運用契約資産が創業27年目で1兆円を突破し、業界におけるメジャー・プレイヤーの仲間入りを果たしました。しかし、全ての社員のレベルがそれに相応しいかというと、まだまだ成長しなければならない面があると考えています。だからこそ、社員の専門性や向上心をより一層高め、盤石な組織体制を構築することも目標です。また、当社には既に80名の社員がおりますが、少数精鋭主義を大前提としつつも、新卒や第二新卒を中心にポテンシャルの高い若手採用には積極的に取り組んでいます。
日本屈指の独立系運用ブティックハウスとして、欧米から大きく遅れた硬直的な日本の運用業界を、当社らしいイノベーションを起こすことで変革していきたい、そのビジョンは今後も変わりません。
企業名 : ベイビュー・ アセット・マネジメント株式会社
代表者 : 八木 健
所在地 : 東京都千代田区
設立 : 1998年1月
事業内容
投資運用業(投資信託及び投資一任の運用)
投資助言・代理業
第二種金融商品取引業