【株式会社ベートーベン】
西出 実華社長インタビュー
子どもの頃から「バリバリ働く大人になりたい」「いつか自分の会社を持ちたい」という漠然とした憧れがありました。
きっかけは、小学校の読書感想文です。賞をもらったことが何度かあったのですが、実はその文章は母に手伝ってもらったもので、自分の力で取った賞ではないという引っかかりがずっと残っていました。
「自分一人で書ききれるようになりたい」——その思いから、文章を書くこと自体が好きになっていきました。
興味があったのは小説や物語ではなく、新聞記者や編集の仕事の方でした。大学生のときにコラムの仕事を自分で見つけて書いてみたり、興味のあることがあれば自分から情報を取りに行って飛び込む、というのが学生時代の過ごし方でした。
あるとき、吉本新喜劇の脚本家の方が弟子を募集していると知り、図々しく手紙を書いて弟子にしていただきました。それからは、東京の大学に通いながら毎週末は大阪に通って、テレビやラジオの現場でAD的な仕事をしながら学ばせてもらう生活が始まりました。
番組や舞台の現場で、ゼロから何かをつくり上げていく面白さに夢中になりました。
卒業後は舞台演出家の助手として伝統芸能の現場に入り、その後はイベント制作会社、Web制作会社の取締役と、いろいろな業界の裏方をやらせていただきました。
ジャンルへのこだわりは特になく、ただ「裏方でモノづくりをすること」が好きで、面白そうな仕事に手を伸ばしていたら、いろんな現場を経験することになっていた、というのが正直なところです。
転機になったのは、転職サイトで見つけた一つの求人広告でした。
「プレゼンの勝率が高い会社」と書かれていて、勝率が高いということは、そこで書かれている企画書が強いはず、自分の文章力や組み立てを鍛えられるはずだと直感して入社しました。
蓋を開けてみると、そこはイベント業界の制作会社で、結果的にイベントプロデュースや広告の世界を学ぶことになります。文章の修行のつもりで入った会社で、企画の組み立て方やプロモーション全体を見る視点を身につけたという意味で、自分のキャリアにおける大きな分岐点となりました。
2010年、それまでの経験を活かして「モノづくりを楽しむ会社」として株式会社ベートーベンを立ち上げました。
最初から大きく稼ぐことを目的に始めたわけではなく、それまでに出会った「この人と一緒に何かつくりたい」と思える仲間たちと、好きなモノづくりをするために立ち上げた会社でした。
毎日「次は何をつくろうか」とワクワクしながら仕事をしていたあの感覚は、16年経った今も会社の根っこに残っていると思います。
経営をしていくうえで、一番大切にしているのは「クライアントは親友として向き合う」という考え方です。これは社内の行動指針として明文化しています。
発注者と受注者という関係性のままだと、どうしても「言われたものを納める」仕事になってしまいます。でも、本当にやりたいのはそこではなくて、クライアントの事業を自分たちの事業のように考えて、ときに耳の痛いことも伝え、ときに一緒に喜ぶ、そんな関係性をつくりたいと思っています。
もう一つ大切にしているのが、「面倒なことこそ、自ら取りに行く」という姿勢です。
広報やプロモーションの仕事は、表に出る華やかな部分の裏側に、地道で面倒な作業が無数にあります。データを整理する、地味な数字を追い続ける、関係者の調整を粘り強くやる。そういう面倒な部分を引き受けることが、結局はクライアントの成果に直結すると考えています。
逆に言えば、面倒なことを避けて見栄えだけ整える仕事は、私たちはしないと決めています。
経営の判断で迷うことはたくさんありますが、最終的にはいつも「自分たちが本当にワクワクできるか」という基準に戻ってきます。ワクワクしない仕事を引き受けても、良いアウトプットは出ません。逆に、難しくてもワクワクできる仕事なら、チームは自然と力を発揮します。
経営者として数字も見ますが、数字だけで判断すると、会社の個性が薄れていきます。私たちは「個性を大事にする会社」を掲げているので、自分たち自身の個性を消すような選択はしないようにしています。

ベートーベンは、自らを「伴走型広報プロダクション」と呼んでいます。
一般的に、PR会社・制作会社・広告代理店は、それぞれ別々の役割を担うことが多く、戦略を立てる会社、つくる会社、運用する会社が分かれていて、クライアントは複数の会社を束ねながらコミュニケーション全体を設計しなければなりません。この分断こそが、広報の成果を弱めている大きな原因だと考えました。
だから私たちは、戦略立案からデザイン、Web、映像、イベント、運用まで、すべてを社内一貫体制で担うかたちを選んでいます。そして、単発の制作で終わらせるのではなく、クライアントの社内広報部の一員のように、年単位で一緒に走り続ける伴走型のスタイルを大切にしています。

私たちの強みのひとつは、行政広報の領域で16年間にわたって積み上げてきた実績です。中央省庁や自治体の案件を含め、これまでに300件以上の行政案件を担当してきました。
この経験を通じて、社会課題や政策の流れを読む力が、自然とチームに備わりました。これは民間企業の広報にも大きく活きています。
例えば、製造業の省エネ対策。多くの企業にとって、これは規制対応として「やらなければいけないコスト」として捉えられがちです。
それを、取引先からの選定基準や、若い世代に響く採用ブランディングの資産として打ち出し直す。あるいは、廃棄されてきた規格外野菜を、フードロス対策の素材としてではなく、「あえて選びたくなる商品」として消費者の文脈に置き直す。同じ事実でも、どの社会的文脈に乗せるかで、伝わり方も価値もまったく変わってきます。
単に商品やサービスを宣伝するのではなく、「社会にとっての意味」に翻訳して伝える。これが私たちの一番の差別化ポイントだと考えています。
もう一つの特徴は、英語での広報支援に対応できることです。
私自身、東南アジアやアメリカでのプロジェクトに長年関わってきて、海外クライアントとのお仕事や、米国オフィス(メリーランド州シルバースプリング)を拠点とした活動も続けています。
英語のプレスリリースやWebサイト・LPの制作、企業PV・サービス紹介動画の多言語字幕対応、海外メディアへの対応、インバウンド向けのコミュニケーション戦略まで、社内チームで対応できる体制を整えています。
単に翻訳するのではなく、現地の文化的背景やトレンドを踏まえてローカライズすることを大切にしています。日本企業の海外展開、海外企業の日本進出、インバウンド需要への対応など、言語の壁を越えた広報のご相談が増えており、これからの広報にとって欠かせない領域になっていくと感じています。
私たちのミッションは、「埋もれている個性を、社会に届ける」というものです。
世の中には、本当は素晴らしい価値を持っているのに、うまく言語化できていない、伝え方が不器用なせいで知られていない、そんな企業やサービスがたくさんあります。
その埋もれた個性を発掘し、磨き、社会に届くかたちに整えること。これが私たちの仕事だと考えています。
正直に言うと、創業から今まで「これは大変だった」と振り返るような劇的なエピソードはあまりありません。2019年に別のインタビューで同じ質問をいただいたときも、「苦労はなかった」とお答えしていて、そこは今でも変わっていません。
ただ、それは課題がなかったという意味ではなく、課題を「困難」として大きく捉えすぎないようにしている、ということだと思います。日々小さな問題は無数に起きますが、それを一つひとつ面白がりながら解いていくのが、私たちの仕事のスタイルです。
自分の中で最も大きな葛藤があったタイミングを挙げるとすれば、「少数精鋭」というスタイルそのものを問い直した時期です。
私はもともと、少人数で密にモノづくりをするスタイルが性に合っていて、人を増やすことに積極的ではありませんでした。個人的には、個室にこもって誰とも話さず作業したいタイプです。それでも、ある企業の顧問をさせていただいた経験を通じて、しっかりとした分業体制があれば、メンバーがモノづくりにかける時間を増やせるのだと気づきました。
「自分の心地よさ」と「会社としての成長」は、必ずしも一致しない——その現実と向き合った時期でした。
最終的に出した答えは、人数を大きく増やすのではなく、少数精鋭のままで、企画・PR・デザイン・エンジニアリング・映像・イベントの6領域に専門家がそろう体制を整えるというものです。
今も10名以下の規模を維持しています。クライアントとの距離が近く、息遣いが分かるくらいの距離感でモノづくりができるという、創業時から大事にしてきた感覚を手放さずに済む規模感だと思っています。

困難の乗り越え方として大切にしているのは、特別なテクニックではなく、迷ったら創業時のワクワクに戻る、というシンプルな習慣です。
判断に詰まったとき、数字や合理性だけで考えると間違えることが多いので、「これは自分たちが本気で楽しめる仕事か」「クライアントの個性を本当に引き出せているか」と自分に問い直すようにしています。
私たちは2029年までの中期ビジョンとして、「『一番魅力を引き出せる』と言われる会社になる」という目標を掲げています。
具体的には、新規案件の50%以上を指名案件にすること、そして「魅力を引き出す会社」として最初に思い出してもらえる存在になることを目指しています。
このビジョンを達成するために、ブランド認知の拡大、信頼の構築、指名意思の形成、実行力の証明、そしてお客様自身が他社に推薦してくださる関係性づくり、という5つの行動軸を社内で共有しています。
広告・マーケティング業界は、AIによって大きく変わりつつあります。
コピーを書く、画像を生成する、データを分析する。多くの作業がAIで代替できるようになりました。そんな時代だからこそ、私たちは「人間が個性を発掘し、引き出し、整える」という部分に、より強くこだわっていきたいと考えています。
AIは過去のデータの平均値から答えをつくります。でも本当に届けたい「個性」は、平均値の外側にあるものです。クライアントととことん会話し、相手の気持ちを想像し、まだ言語化されていない価値を見つけにいく。この地道で丁寧な作業は、当面、人間にしかできない仕事だと思っています。
私たちが力になりたいのは、「本当は素晴らしい価値を持っているのに、まだ社会に伝わりきっていない」企業や事業の方々です。
大企業の大規模キャンペーンというより、自分たちの個性に自信が持てないでいる中小企業や、これから世の中に出ていく新規事業、社会課題と接続する余地のある事業を持っている方々と、深くお付き合いしていきたいと思っています。
私自身、起業を最初から綿密に計画していたわけではありません。文章を書くことへの小さなコンプレックスから始まり、興味のあるものを追いかけているうちに、いつの間にか起業にたどり着いていました。
だから、いま「自分のキャリアの軸が定まらない」と悩んでいる方がいたら、無理に決めなくていい、と伝えたいです。
興味のあることに正直に、そして必ず行動に移してみる。
私自身、興味があったら脚本家の方に図々しく手紙を書いて弟子入りしたり、「プレゼンの勝率が高い会社」という求人広告に惹かれただけで転職してみたり、考えるより先に動いてしまうタイプでした。そうやって動いた結果、想定外の場所にたどり着いたことが何度もあって、そのどれもが今の自分の仕事につながっています。
頭の中で考えているだけでは、自分に合うものかどうかは絶対に分かりません。動いてみて初めて、自分の輪郭が見えてきます。
それを続けていれば、必ず自分にしかできない仕事のかたちが見えてきます。私たちは「個性を大事にする会社」ですが、それは私自身が、これまでの人生で自分の個性を大事にしてもらえてきたから言えることだと思っています。
次世代のリーダーの皆さんが、自分の個性を恥じることなく、堂々と社会に届けていけるよう、私たちもその伴走者でありたいと願っています。

企業名 : 株式会社ベートーベン
代表者 : 西出 実華
所在地 : 東京都新宿区四谷三栄町14-21LINK B 1F
設立 : 2010年3月8日
事業内容:
・PRプロダクション
・ブランディング、事業規格、広報、制作グラフィック、WEB、映像、イベントなどの企画、制作、販売促進
URL : https://beethoven.co.jp/