【株式会社チャイルドサポート】
佐々木裕介社長インタビュー
私が現在の事業に携わるようになった原点は、大学時代に取り組んでいた国際的な子ども支援活動にあります。当時、「ジャパニーズ・フィリピノ・チルドレン(JFC)」と呼ばれる、日本人の父とフィリピン人の母の間に生まれた子どもたちを支援するプロジェクトに参加していました。多くの子どもが、父親に認知されておらず、養育費を受け取るどころか法律的な保護を受けられないという現実に衝撃を受けました。
「生まれた国が違うだけで、ここまで権利の保障に差があるのか」と感じたと同時に、こうした問題を放置せずに制度として解決することの重要性を痛感しました。この経験が、後に日本国内におけるひとり親家庭や養育費未払いの問題に関心を持つきっかけともなり、法律とテクノロジーを活用して子どもの権利を守る仕組みをつくりたいという志につながっています。
学生時代は小、中、高と野球に打ち込み、努力の量は必ずしも成果として結びつかないこと、正しい方法で継続することの大切さを学びました。結果よりもプロセスに対して真摯であること、指導やアドバイスを素直に受け止められる姿勢、これらは社会人として成長する上でも重要な資質だと感じています。
大学は米国へ。国際関係を専攻し、いろいろな国の人と関わることで多様な視野を持つことができました。その後、慶應義塾大学ロースクールに進学し、法律の基礎を養いました。弁護士資格取得後、10年ほど弁護士として活動してきましたが、その間の経験は現在の事業に活かされています。
また、スタートアップ企業Paidyにて幅広い業務を担当し、急成長する企業の中でスピード感を持って成果を出すという経験は、現在の仕事の仕方にも直結しています。
前職でFinTech業界に身を置いた際に、テクノロジーを実装した新規サービスの力に魅了されました。一方で、家族の問題、特に離婚や子どもの養育に関する課題は、法制度だけでは十分に解決できていない領域だとも感じていました。
そんな折、経済産業省が主催する「始動 Next Innovator」プログラムに参加し、社会課題に向き合うビジネスアイデアのブラッシュアップを行いました。その中で、自分が本当に取り組みたいのは「家族のかたちが変わっても、子どもが安心して暮らせる社会づくり」だという確信を得ました。
日本では毎年約20万組が離婚し、その半数に子どもがいます。しかし養育費の支払い率はわずか28%。この現実を変えるために、法制度の隙間をテクノロジーと仕組みで埋める事業が必要だと考え、2023年3月に株式会社チャイルドサポートを立ち上げました。
当社では、主に2つのサービスを提供しています。ひとつは「離婚公正証書作成支援サービス」、もうひとつは「養育費保証サービス」です。
まず、離婚時に法的な合意文書である公正証書を作成することは、養育費などの取り決めを確実に履行させるための第一歩です。しかし、多くの方が手続きの煩雑さや心理的ハードルからこれを行っていません。当社では、LINEを使って離婚合意内容を入力したり、専門家による伴走支援のもと、公正証書作成までをサポートします。
次に、万が一養育費の支払いが止まった場合に、当社が保証会社として回収代行を行い、必要に応じて弁護士費用を当社負担した上で、強制執行まで行います。これにより、支払う側の振り込み忘れを防止し、回収行為に伴う心理的ストレスから解放させるような仕組みを実現しています。
法的知識とテクノロジーを融合し、利用者に寄り添ったプロダクト設計を行っている点が、当社の大きな強みです。
私たちが最も支援したいのは、特に経済的・情報的に困難を抱えるシングルマザーの方々です。日本のシングルマザーの就業率は世界トップであるにもかかわらず、貧困率も先進国の中でトップです。離婚後に孤立する方も少なくありません。
そうした方々にとって、公正証書の作成や法的な交渉、相手とのやりとりは非常に大きな負担になります。その負担を少しでも軽減し、誰でも手軽に「正しい離婚」ができるようサポートすることが、私たちの使命です。
また、子ども自身には選択権がありません。だからこそ、親の責任として、経済的・心理的な安定を確保していく環境づくりが必要だと考えています。サービスの利用を通じて、子どもが健やかに育つ社会基盤の一部になれれば嬉しいです。
最も大きな困難のひとつは、離婚という非常にデリケートなプロセスに、ITやテクノロジーを持ち込む難しさがあります。感情が先立つテーマであるからこそ、システムの自動化がうまく機能しない場面も多くあります。
最初は「離婚プロセスをIT化すれば効率的に解決できる」と考えていたのですが、実際には「人が関わらなければならない部分」と「システムで代替できる部分」の切り分けが重要であると痛感しました。
この学びから、「テクノロジーは人間のためにある」という当たり前のことを、事業の中で常に意識するようになりました。最も困っている人に届くサービスであるためには、単なる自動化ではなく、共感と対話を組み合わせた設計が必要なのです。
中長期的な目標は、2026年5月に施行される「共同親権制度」に向けて、より多くの自治体や法制度と連携した支援スキームを確立することです。これにより、離婚後も父母が共に責任を持ち続け、子どもを中心とした家族の新しい形を支える社会の実現を目指します。
また、当社は2025年4月、裁判外紛争解決手続(ADR)の認証取得をしたところです。家庭裁判所に頼らずに当事者間の合意形成を支援できる仕組みを提供することで、もっと柔軟性があり、もっと自律的な離婚プロセスを可能にしたいと考えています。
最終的には、「正しい離婚」が当たり前になる社会をつくりたい。そのために、制度と心の両方を整えるような存在であり続けたいと思っています。
「家族のかたちが変わっても、子どもが安心して暮らせる社会を実現すること」です。離婚や別居など、親の関係性の変化にかかわらず、子どもが安心して生活を続けられるよう、経済的・心理的な支援を提供することを目的としています。理念の背景には、離婚後の家庭が持つ多様な困難に、制度やサービスが追いついていないという現実があります。私たちはそのギャップを埋め、誰一人取り残さない支援を目指しています。
私が大切にしている言葉の一つに「合理と情理の両立」があります。ビジネスの世界では合理性が求められますが、家族や人間の問題に向き合うには情理、つまり心の通った共感や思いやりも欠かせません。この2つは時に矛盾するようでいて、実は補い合う関係でもあります。だからこそ、どちらかに偏らず、両者のバランスを保つことを常に意識しています。
離婚や養育費といったテーマは、まだまだタブー視されがちです。「法は家庭に入らず。」が堂々と生き続けているのが日本社会だと思います。しかし、誰もが自分らしく生きるためには、離婚やステップファミリーがタブー視される社会ではなく、それを「当たり前の選択肢」であること社会が認め、離婚後の子どもを社会が支える仕組みが必要だと考えています。株式会社チャイルドサポートは、制度やサービスを通じて「正しい離婚」を啓発し、子どもと親の未来を守るために挑戦し続けます。
少しでも多くの方が「正しい離婚」プロセスを知り、共により良い社会をつくっていけたら幸いです。
企業名 : 株式会社チャイルドサポート
代表者 : 佐々木 裕介
所在地 : 東京都中央区銀座
設立 : 2023年3月
事業内容
離婚公正証書作成支援
養育費保証サービス
離婚協議のサポート
養育費請求サポート