【株式会社三香堂】
佐々木 基之社長インタビュー
1959年5月30日、大阪府東大阪市生まれ。100年続く家業の三代目としての教育を受ける。大学卒業後、大阪のアパレル会社にて1年間勤務。1983年に株式会社三香堂へ入社。2000年に副社長に就任し、2003年より株式会社三香堂 代表取締役社長に就任。2026年3月12日、同社創業100周年を迎える。
私は、皮膚用化粧品の製造を行う三香堂の三代目として生まれました。幼い頃から家業を継ぐことを当然とする環境で育ち、祖父や父から創業の精神や物事の考え方を学んできました。
大学卒業後は、一度外の社会を経験するためアパレル企業に勤め、その後20代で三香堂に入社しました。当時は親族の役員が多く、指示系統も複雑な組織でしたが、現場と経営の実務を一つひとつ学びながら経験を積みました。
その後、40歳で副社長、43歳で社長に就任し、現在は創業理念を守りながら、組織改革や働き方改革を進めています。創業100周年を迎えた今は、次の100年に向けた会社づくりに取り組んでいます。
当時は「後継者として結果を出さなければならない」という強いプレッシャーがあり、精神的にかなり追い込まれていました。
その転機となったのが、山岡荘八の『徳川家康』との出会いです。家康の母が、他者の裏切りに対して恨むのではなく、「嘘をつき続けなければならない人は不幸だ」と受け止める場面に深く心を動かされました。
それまで私は、後継者とは自分が先頭に立ち、成果を出さなければならないものだと思い込んでいました。
しかし、必ずしも自分がゴールを決める必要はなく、周囲の人が力を発揮できる環境を整えることこそが後継者の役割だと気づきました。そこから、いわゆるサーバント型のリーダーシップを意識するようになり、肩の力を抜いて仕事に向き合えるようになりました。
また、幼い頃は「継ぐのが当然」という環境を疑いませんでしたが、今振り返ると、父は私に後継者としての強さを身につけてほしいと願っていたのだと思います。
私が日々意識しているのは、「誰かの役に立っているか」という視点です。
サーバント型のリーダーシップを意識するようになってから、個人の損得や私利私欲ではなく、他者への貢献の中にこそ、自分のやりがいや働く意味があると考えるようになりました。
日々の仕事の中で、誰かの役に立てているという実感が、私のモチベーションの源になっています。
祖父と父から繰り返し教えられてきた言葉に、「天知る 地知る 子知る 我知る」があります。
たとえ人に見られていなくても、天も地も、自分自身もその行いを知っている。
だからこそ、人は偽りなく正直であるべきだ、という意味の言葉です。私はこれを「人を欺かず、偽りなく、正直に生きる」という教えとして受け止めています。
経営においても、個人の利益だけではなく、「世のため、人のため」にかなうかどうかを基準に、誠実に判断することを心がけています。
三香堂の創業は大正時代にさかのぼります。
創業者は当時、福島県会津若松で海産物問屋を営んでいました。
まだ冷凍・冷蔵技術が十分ではなかった時代、売れ残った魚介類を身内や従業員で食することがあり、その影響もあって皮膚疾患に悩む人が少なくなかったといいます。
そうした人々を助けたいという思いから、創業者は和漢植物の研究を独学で始め、酒造りのように長期間自然熟成させる独自製法を生み出しました。こうして誕生した美容原液が、現在の三香堂の原点です。

「三香堂」という社名には、いくつかの意味が込められていると考えています。
まず「三」という数字には、古くから安定や調和の意味があるとされ、企業としての安定した基盤を象徴しています。
また、「三」「香」「堂」という文字はいずれも左右対称に近い形を持ち、発展や運気の上昇を表すとも言われています。
さらに「香り」は目には見えませんが、周囲に良い影響を広げる存在です。
私はこの社名を、「人や社会に、良い香りのように価値ある貢献を広げていく会社」という意味で受け止めています。
三香堂の理念は、「世のため、人のため、お役に立つ」という創業の精神です。
会社の利益だけを追うのではなく、社会に貢献し、必要とされる存在であり続けることを何より大切にしています。
この理念は、単に商品を販売するという意味ではなく、社会や人々の暮らしにとって価値ある存在であり続けたいという思いを表したものです。
私は、個人のやりがいもまた、私利私欲の中だけでは長続きしないと感じています。
むしろ、周囲の人や社会のために行動し、その中に自分の役割を見いだしたときに、自然と応援が生まれ、物事も前に進んでいくのではないかと思います。
だからこそ三香堂では、企業活動においても働く一人ひとりにおいても、「誰かの役に立っているか」という視点を大切にしています。その積み重ねが、本人の充実にも、社会への貢献にもつながると考えています。
三方よしとは、売り手よし、買い手よし、世間よしという近江商人の精神です。この考え方は、現代で言うSDGsの理念にも通じるものだと考えています。
企業だけが利益を得るのではなく、お客様、社員、お取引先、地域社会など、関わるすべての人にとって価値ある関係を築いていくことが、持続可能な経営の本質です。
三香堂も、この三方よしの精神を大切にしながら、長く社会に必要とされる企業であり続けたいと考えています。
三香堂は、「世のため、人のため、お役に立つ」という理念を、事業と組織の両面で具体化してきました。
事業面では、化粧品専門店を通じた対面カウンセリングを重視しています。
私たちは専門店を「お肌のかかりつけ医」のような存在と捉え、お客様一人ひとりの肌状態や生活背景に寄り添いながら、継続的に支えていくことを大切にしています。
また組織面では、社員一人ひとりが能力を発揮できるよう、サーバント型のリーダーシップを基盤に、女性が活躍できる環境づくりや柔軟な働き方の整備にも取り組んでいます。
こうした取り組みを通じて、三方よしの精神を現代において実践し、関わるすべての人にとって価値ある企業であり続けたいと考えています。

当社の事業は、皮膚用化粧品の研究・製造・販売を中心に、和漢植物を活用した製品開発、長期熟成による独自製法の継承、そして化粧品専門店を通じた対面カウンセリング販売にあります。

強みは、第一に、長期熟成と和漢植物を組み合わせた独自の製品価値にあります。
創業以来の製法を守りながら、「本物を届ける」ことを大切にしてきました。第二に、広告に頼るのではなく、ご使用いただいた方の実感が口コミで広がってきた点です。第三に、親から子へと受け継がれる信頼と、100年続いてきたブランドの継続性です。
さらに、化粧品専門店を「お肌のかかりつけ医」として位置づけ、継続的なサポート体制を築いていることも大きな強みです。加えて、子育てや介護と仕事を両立できる職場環境の整備にも取り組み、人材の定着と活躍につなげています。
当社の特徴は、業界でも類を見ない長期熟成による100年ブランドの化粧品であることです。
ただ、それ以上に大きいのは、単に商品を提供するのではなく、人と人との関係性の中で価値を届けている点です。
現在はインターネット販売が主流の時代ですが、当社ではあえて化粧品専門店を通じた対面カウンセリングを重視しています。専門店を「お肌のかかりつけ医」と捉え、お客様一人ひとりに寄り添いながら継続的にサポートすることを大切にしています。
また、当社の商品は広告で大きく広げてきたのではなく、実際にご使用いただいたお客様の実感が、人から人へと伝わることで支持を広げてきました。製品の本質的価値と、人と人との関係性を一体として提供していることが、当社の独自性であり差別化の源泉です。
かつての三香堂は、いわゆる昭和型のトップダウンによる権威型の組織運営が中心でした。
しかし、その体制では社員一人ひとりの力を十分に引き出すことはできないと感じ、経営のあり方を見直しました。
具体的には、経営者や管理職が前に立って指示を出すのではなく、社員が力を発揮しやすい環境を整えることへと役割を転換しました。
業務の見える化を進めるためにISOの導入やマニュアル整備を行い、属人的だった仕事を共有できる仕組みを整えました。また、現場の意見を取り入れながら運営する体制へと変えていきました。
その結果、管理する組織から、支え合いながら成果を生み出す組織へと変化してきたと感じています。現在では、経営者は理念の方向性を示すと同時に、社員一人ひとりが安心して力を発揮できるよう支える存在であると考えています。
当社が女性中心の組織へ舵を切ったのは、事業そのものが、お客様一人ひとりに寄り添うきめ細やかな対応を必要とするものであり、その点で女性の感性や共感力が大きな力を発揮すると考えたためです。
また、権威型の組織から脱却し、多様な価値観を取り入れながら、社員一人ひとりが主体的に力を発揮できる組織へと転換するうえでも、女性管理職の積極登用には大きな意味がありました。
加えて、子育てや介護と仕事を両立できるよう、時短勤務や在宅勤務など柔軟な働き方の整備も進めてきました。
その結果、経験や知識を持つ人材の離職防止につながり、組織の安定性と生産性の向上に結びついています。また、現場の声を生かした商品提案やお客様対応の質も高まり、当社の強みである対面カウンセリングの価値をさらに高める結果になっています。
創業100年の企業として、在宅勤務やデジタル化を進める中では、一定の苦労がありました。特にコロナ禍を契機に改革が進みましたが、すべてが順調だったわけではありません。
実際には、「紙の方がやりやすい」「出勤して働きたい」という価値観を持つ社員も一定数おり、働き方や業務の進め方に対する考え方の違いがありました。
そのため、一律に進めるのではなく、それぞれの考え方や事情を尊重しながら段階的に取り組んできました。一部では、環境の変化に適応できず退職に至るケースもあり、難しい判断を迫られる場面もありました。
一方で、子育てや介護などの事情で従来の働き方が難しい社員にとっては、新たな活躍の場にもなりました。
現在では、デジタルと対面の双方の良さを生かしながら、多様な働き方を受け入れる組織へと進化していると感じています。
私が譲れないのは、経営の目的は単に利益やお金を残すことだけではない、という考え方です。
もちろん企業として利益を上げることは重要ですが、「お金さえ残ればよいのか」という問いは常に自分の中にあります。後継者として、本当に残すべきものは何かを考えたとき、私は、人の生きがいや働く意味を生み出すことこそ企業の大切な役割ではないかと思うようになりました。
社員一人ひとりが「この会社で働いてよかった」と感じ、自分の仕事が社会の役に立っていると実感できること。
その積み重ねが、企業が長く続く基盤になると考えています。だからこそ、経営においては、お金だけではなく、人や社会に対する誠実さを何より大切にしています。
100周年を迎える今、三代目として一定の役割は果たしてきたと感じています。特に、コロナ禍という大きな危機を契機に、経営改革・組織改革・財務改革を一体的に進めることができた点は、大きな転機でした。
権威型から支援型への組織転換や、多様な働き方の導入を通じて、時代に適応した企業基盤を整えることができたと思います。
一方で、まだ果たせていないことも多くあります。本業である化粧品事業をさらに発展させることはもちろん、次の時代を担う人材の育成は大きな課題です。私は、後継者は一人に限るものではなく、組織の中に多くの「社長」を育てていくことが重要だと考えています。
その意味でも、多様な価値観を受け入れた新事業の創出や、将来的なホールディング化など、次の時代に向けた基盤づくりに取り組んでいきたいと思っています。
当社にとって100周年はゴールではなく、新たなスタートです。目指すのは、1000年にわたって発展し続ける社会貢献企業です。
人口減少が進む中、人工知能などのデジタル技術を活用し、業務の効率化と生産性向上を図る一方で、人はより人間らしく、創造性や感性を発揮する領域に力を注ぐべきだと考えています。
当社としても、AIを研究開発や業務革新、事業開発に活用しながら、提供価値の質をさらに高めてまいります。
また、デジタル化により人と人との接点が希薄になる時代だからこそ、テクノロジーを関係性価値の向上に生かし、距離を超えて関係性を深める取り組みを進めてまいります。
対面カウンセリングの価値を大切にしながら、遠隔地のお客様とも継続的に寄り添い、より深い価値提供を実現していきたいと考えています。
今後は、多様な働き方の実現や新事業の創出、ホールディング化を通じて成長基盤を強化し、「世のため、人のため」という理念を実践し続けてまいります。

企業名 : 株式会社三香堂
代表者 : 佐々木 基之
所在地 : 大阪府東大阪市日下町 4-2-59
設立 : 1954年3月23日
従業員数: 約50名
事業内容: 化粧品の研究・開発・製造・販売、直営サロン運営
URL : https://www.opal-co.co.jp/